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住宅ローンに潜むリスク

従来、国の公的機関として一般消費者向けに提供していた住宅金融公庫の融資を引き継ぐかたちで、住宅金融支援機構が2007年から取扱いを行っている「フラット35」は、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する長期固定金利の住宅ローンです。短期資金で資金調達を行う民間金融機関は、20年、30年という超長期の固定金利型住宅ローンを取り扱うことがむずかしいことから、住宅金融支援機構が、フラット35を取り扱う民間金融機関から住宅ローン(フラット35)の債権を買い取り、それを担保とする債券を発行することで長期固定型の住宅ローンを提供する仕組みとして扱われたものです。

一種の証券化による商品といえますが、借主側からすれば、取扱金融機関の窓口で長期間固定の住宅ローンを利用することができる点では、通常の住宅ローンとなんら変わるものではありません。民間の金融機関では、自己の資金で住宅ローンの取扱いをふやしたいという意向から「フラット35」を積極的に取り扱っていない金融機関も多いようですが、借主側の立場に立てば、選択できる商品ラインナップが多いほうが「お客さま指向」ともいえますので、商品性の観点からも検討することは重要といえるでしょう。

また、フラット35は、金融機関への手数料分を加味した金利が、対お客さまへの融資適用金利となりますが、金融機関によって手数料部分の扱いに違いがあるため、取扱金融機関によって金利に差が出ています。金融機関経営全般にいえることですが、ある業務を考えた場合、リターンて収益)があれば必ずリスク(危険)が内包されています。さらに業務を運営していく過程では、必ずコスト(費用)がかかります。図は、リスクとリターンとコストとの関係を表現したものです。

3つの要素をバランスよくどのようにして保ったらよいか、経営全体としてはもちろんですが、事業分野別にもそれぞれ考えなければなりません。年間リターンの額に対して想定されるリスク量はどの程度なのか、全社的にとらえると同時に事業部門別にとらえる必要があります。その結果、最終リターン(収益)の範囲内でリスクを制御できるか否か。制御できなければそのリスクを統制するために、どう予防しなければいけないのかを考える必要があります。場合によって、想定する収益の範囲内にリスクを収めることがむずかしい場合には、証券化や保険等の手法を活用してリスクそのものを外部に移転させるという考え方も検討しなければなりません。

保証会社保証料とは

現在の金融機関が取り扱う住宅ローンについては保証会社の保証を利用するケースが大半です。国内銀行の場合は自行の関係会社保証を利用しますが、信用金庫の場合は、業界で設立した「しんきん保証」の保証を利用するケースと、民間の保証会社である「全国保証」の保証を利用するケースに分かれています。保証会社保証は、借主が返済を滞った場合は、借主にかわって借入金を保証会社が支払う制度=代位弁済であって、借入金額と借入期間によって定められた保証料を借主が負担するものです。一般的に保証料は、100万円当り約5千円(5年)~20千円(35年)となっており、20百万円のローンを20年間で契約するとなると、15千円×20=30万円程度の保証料負担となります。

また、分割払いということで、毎月の借入金と一緒に支払う方法もありますが、年利0.2%程度が一般的で一括で支払うよりも割高になります。また、最近では住宅ローンの商品性を高める意味から保証料を無料とするケースも出てきていますが、全体としては金融機関にとって融資した資金が返済されないリスクを完全に補完することができるため、保証会社の保証を義務づける機関も多くなっています。しかし、ここで問題となるのが、国内銀行のように関連会社が保証を行っている場合、特に連結対象となる関連会社の場合は、元金を回収できなくなるリスクを考えなければなりません。

借主が返済を滞り保証会社が借主にかわって銀行からの借入金を弁済したとしても、保証債務を履行したことであって、保証先である借主からはなんらかの方法で弁済金を回収しなければなりません。回収できなければ結果として損失が顕在化することになるのです。融資した住宅物件については、保証委託契約に基づく担保権が設定されていますから、代位弁済した時点で債権者は保証会社となり、債務者から融資金を回収するために物件を処分することで回収を図ることとなりますが、物件価格が下落していれば当然その時点で損失が確定します。特に物件がマンションの場合は、融資実行時の販売価格と数年経過した時点の処分価格には相当の目減りが発生するため損失は拡大するケースが大半となります。

では、借主から徴収している保証料によって当該損失は補てんすることができるでしょうか。一般的な保証料率による「貸出金額30百万円、貸出期間20年、保証料15千円/100万円当り」という条件で、年間の延滞発生状況(0.1~0.5%)と代位弁済後の物件処分による元本回収見込額50%として、単純にシミュレーションしてみると図のとおり、保証会社経費と物件処分による回収見込額を考えなくても、現状の保証料率による収入では、6年目に損益はマイナスとなります。無理な貸出により延滞する可能性が高まれば当然代弁率も上昇するため、現状の保証料率では損失分を補完できなくなることは明確ですので、国内銀行の関連保証会社についてはなんらかの対応策を講じる必要が出てくるでしょう。

住宅ローン金利について

現在の住宅ローン金利は「市場金利」が低位に推移していることから、過去十数年間非常に低位で推移しています。さらに、金融機関同士の競争が激しいこともあって金利引下げ競争の様相となっているのですが、金融機関経営の観点から採算性も加味した適正な金利水準をどのように考えたらいいでしょうか。本来、金融機関として適正な利鞘を確保して運営するために必要な金利の算定根拠を考えると図のようになります。貸出に必要となる資金をすべて市場から調達したと仮定し適正な金利水準を考えると、市場における資金調達コストをベースに、「営業活動に必要な費用」と、期間中に返済が滞り資金が回収できなくなる費用=「信用コスト」と、「想定すべき利益」を加味して金利を設定する必要があります。

事業法人への融資の場合、信用コストは算出期間中の想定デフォルト率と回収できない未保全額によってロスが想定されます。その想定されるロスを補うため、どれだけの利益を確保しなければいけないか考えますが、住宅ローンの場合はどのように考えるべきでしょうか。現在の金融機関は預金が貸出金を上回るオーバーセービングの状態になっているケースが大半であり、上記の市場における調達コストは預金金利として顧客に支払う利息分を資金調達コストと考えることができます。日銀の政策金利である公定歩合をベースとして預金金利は決められていますから、ほとんどゼロに近い金利で推移しており、調達コストは0.1~0.2%程度と考えることができます。

また、営業活動に必要となる経費には「人件費」「物件費」「税金」等がありますが、経費率(対預金平残比)は1.2~1.5%程度と考えられます。想定すべき利益率に関しては、資金を運用した結果得られるであろう利益である総資金利鞘と仮定すると0.2~0.3%と考えることができます。ここで、問題となるのが信用コストです。住宅ローンの場合は大半の商品が保証会社の保証により保全されており、万が一、債務者の方が住宅ローンを支払うことができなくなっても保証会社が全額返済を引き受ける制度があるため、信用コストはゼロと考えることができます。保証に必要となる費用については、保証料として借主が個別に支払うことからコストとしてとらえる必要もありません。

以上を総括すると、金融機関によって経費率は異なりますが、現在の金利環境における標準的な金利は、変動金利の場合、市場の金利にあわせて6ヵ月ごとに金利を見直すこととなりますから、現時点では「1.5~2.0%」が採算ラインとみていいのではないかと考えられます。また、固定金利に関しては、今後の金利上昇見込み等を総体的に考える必要がありますが、金利スワップ等のリスクヘッジ手法により金利上昇リスクを回避する方法を採用している金融機関も多く、スワップ手数料率等の費用を考慮して決定していると思われます。

ただ、最近は、金利競争により基準金利から1~1.5%程度優遇するケースも多く、採算ラインを大きく下回っているケースが大半ではないでしょうか。最終的には、「このような特性のお客」さまに対しては、このような基準の商品」を提供すると明確に定めたうえで営業推進をすることが必要であり、「資金使途、返済方法、適用金利」で分類した商品を、どういう層の人に提供していくのかを考えておく必要があるでしょう。収益性はあるのか、コストはどれだけかかるのか、ロスはどれだけ発生するのかをふまえた見方で商品設計を行い、推進方法を考えることが必要と思われます。

住宅ローンに関する主要条件

個々のお客さまに対して、住宅ローンに関する主要条件について、どの組合せによる商品の提供がよいのかという見方はおそらく十分ではなかったのではないでしょうか。特にこめ数年は、競合他行に勝つために、固定金利型の安い金利商品で(ここ1、2年は変動金利型住宅ローンが主流となっていますが)、期間を長くして毎月の返済負担を軽減する傾向が強かったのではないかと思われます。本来であれば、金利や返済方法については、お客さまの年齢、勤労状態等の条件など、ニーズに応じた組合せをお客さまとともに考えていく必要があるのですが、住宅ローンを推進するという点が重視され、お客さま目線の商品提案ができていないことが問題といえます。

一般に、本部企画部門が住宅ローンの目標を計画する場合、対前年比○%増加のように残高ベースの目標設定をされているケースがほとんどです。目標を達成するための活動に関しては、営業現場の方々に任せきりという状態になっているのです。本来、金融機関に求められるコンサルティング機能とは、お客さまが住宅ローン商品の利用を考えた段階で、商品の内容を正確に説明し、お客さまの要望を組み込んだ内容で将来的にも負担にならないようなアドバイスを行う対応をしなければなりませんが、営業店の現場では、ローン残高をふやすために、適用金利を引き下げ、融資期間を長く設定することで、収入に見合う返済負担を意図的につくり、実行しているケースもあるのです。

たとえば、給与所得者について、「年間所得に占める住宅ローンの返済額の割合=DTI」は25%以下という条件でなければ融資審査が通らないとした場合、20百万円の住宅ローンを利用する際に必要となる年間所得額を「適用金利」「返済期間」の組合せで計算すると以下のとおりとなります。つまり、融資の可否判断として適用される「DTI =25%」という条件は適用金利と返済期間によって基準となる年間所得金額に1,500,000円以上の差ができるのです。裏を返すと、若くて所得が少ない人でも期聞を長く設定すれば借入れができるということになります。

また、②のケースの条件で、年間所得額が①のケースの場合であれば、借入金額は30百万円まで可能となります。従来までの考え方では、住宅を取得する際には20~30%程度の自己資金があることが条件となっており、購入価格の70~80%を住宅ローンとして利用するケースが一般的でしたが、獲得競争の結果、購入価格全額、さらには諸費用までも加算した額で住宅ローンを提供する金融機関も存在しています。住宅ローン残高を伸ばすことを目的とするあまり、本来、借入れするには無理があるお客さまに対して「金融機関」側が能動的に働きかけて獲得しているケースが非常に多いめではない
かと思われます。

成熟する住宅ローン市場

新規に住宅ロ―ン先を獲得するだけでは収益にはなかなか結びつかず、既存のお客さまとの取引を約定どおり20年、30年続けていただくことで残高の確保と収益性向上を図る戦略への転換が求められていると考えられます。ちなみに、住宅金融支援機構が発表しでいる2010年度の住宅ローンの新規貸出調査では、「新規貸出に占める借換の割合に関しては単純に平均すると36.7%となりますが、3割以上の機関は全体で59.8%と6割を占めている」こと、各金融機関の住宅ローンへの取組姿勢に関して「借換案件の増強に積極的に取組む」機関が63.2%、「金利優遇の拡大に積極的に取組む」機関が54.9%と、他行顧客の奪取に重点が置かれていることが示されています。

また、同調査では貸出金利に関して、調達コストの参考指標を営業経営、預金利息とする先が全体の7割強を占めていますが、金利を決定する際に考慮する要因は競合する他金融機関の金利と回答した先が、変動金利型で96.4%、固定期間選択型で96.1%と、ある意味採算性は考慮しつつも、獲得を最優先する結果、他行金利をベースに決定していることが顕著に現れています。その結果、住宅ローンにおける想定されるリスクとしては、金科競争による利鞘の縮小と回答した機関が最も多く91%に達しており、景気低迷による延滞増加を懸念するリスク68.8%を超えている状態です。さらに、今後の営業活動に関しても、金利優遇を前提とした推進を継続するとした理由として「競合機関との対応策として」とした機関が76. 9%を占めており、金融機関同士の消耗戦となる可能性を秘めていること等の調査結果がまとめられています。

住宅ローン市場が成熟するなかで貸出先を獲得するためには、競合する他機関と比べどれだけ魅力のある商品を提供できるかを考える必要があります。つまり、住宅ローンという「商品」として利用者に求められる要因は何かを考えなくてはなりません。このような問題意識のもと、現在の各金融機関の商品体系を考えてみましょう。一般的には図に記載されている「資金使途」「返済方法」「適用金利」の組合せで分類することができます。この3つの要素に加え、利用者の状況に応じて、「借入期間(最長35年)」や、「完済時年齢」「所得に対する返済額の割合」「借入上限金額」「担保の有無」「保証人の有無」「手数料」などの条件を設けているケースがほとんどです。これらの条件に加えて、「手続の方法」と「付加サービス」を考慮する必要があります。

手続の方法とは、住宅ローンを利用したいと考え、具体的に申し込んでから融資が実行されるまでの「時間」と「利便性」を意味しますが、ネット専用銀行等は、すべての手続をメールや電話、郵便で行うなど「利便性」は非常に高くなっています。最近では「手続」をいかにして簡素化するかが「競争力」として注目を集めていますが、詳しくは、「住宅ローン業務プロセス改革」で説明します。次に、付加サービスですが、代表的なものとして「保険」の付与があります。住宅購入は個人にとっては最大の買い物であり、ローンを利用する場合も20年、30年と長期間になるのが一般的であり、借主が亡くなった際に残された家族を守るという観点から「団体信用生命保険」を付与するケースが大半を占めています。最近では、病気により長期間入院した際にローンの返済を補てんする疾病保険を付与するケースも出てきています。「保険」の付与は、住宅ローン利用者に「安心」を提供するサービスとして考えられているものです。

「住宅ロ―ン」の現状

リーマンショック後の2009年かち2年続けて新設住宅着工戸数が100万戸を大きく割り込む状況が続いています。2011年もこの傾向は続いており、少子高齢化が進むなか今後も急激な増加は望めない状況にあります。このような環境下、金融機関は事業性貸出が伸び悩むなか、貸出金増強を「住宅ロ―ン」の推進に傾注することで全体の残高を何とか維持しているのが現状です。ただ、新設住宅着工戸数の減少に伴い、住宅関連の新規融資額の推移も低下を続けており、ここ数年は20兆円を下回っています。2010年度は19.4兆円ですが、業態別には、国内銀行(都市銀行・地方銀行・第二地方銀行等)が13.1兆円、信用金庫が1.6兆円と2005年以降減少傾向か続いています。

一方で住宅金融支援機構が2.8兆円と大幅に増加しているのが特徴的となっています。また、住宅ローン残高の推移を時系列でみてみると、2001年をピークに183兆円前後を維持していましたが、2006年以降は180兆円を割り込んでいるのが実態です。業態別では、住宅金融支援機構の残高の減少分か国内銀行の増加分に振り替わっているものの、2008年以降はその増加も鈍化しています。以上からわかるとおり、住宅ローン市場はすでに飽和状態に達しており、今後急激に残高が増加すると考えることはむずかしく、限られたパイのなかでシェアの奪い合いをせざるをえない状況が続くものと思われます。こうした状況のもとでは、他機関の住宅ローンを肩代わることで「残高」を確保する競争に陥り、その結果、「適用金利」「手数料」を優遇し合う激しい「金利競争」に突入しているのが現状です。

ところで、このような状況はなぜ発生するのか。地方銀行64行の財務データから検証してみます。金融界は、2000年以降不良債権処理に重点を置いた経営を推し進めた結果、貸出残高は減少の一途でした。そのなかで住宅ローンは長期間の元利均等返済スキームによる長期安定的な収益源として期待できるだけでなく、自己資本比率算出の際のリスクアセット比率が50%(新BIS規制では35%に引き下げられている)である点から、一般事業性融資の拡大に比べても、健全性を示す指標である自己資本比率改善に貢献する点で住宅ローン推進のインセンティブは高かったと思われます。2003年3月末から2011年3月末までの8年間の貸出金残高は21.3兆円増加していますが、その内訳としては住宅ローンが16.6兆円、事業先融資が5.6兆円と約8割が住宅ローンの増加分となっています。

その結果、全貸出金に占める住宅ローン残高は28%を占めるまでにそのウェイトを増しています。金融庁が示した「地域密着型金融の機能強化計画」においては、中小企業融資残高の増強が重点テーマであり主要命題となっていますが、長引く景気低迷の影響を受け、事業性融資の伸びが鈍化、減少しているなかで、最終的には個人向け消費者ローン、とりわけ「住宅ローン」を積極的に推進せざるをえないというのが現状といえます。住宅着工戸数の伸びが期待できない状況下、住宅ローン残高は、今後、横ばいから減少に向かうものと思われます。民間金融機関はこれまでのように毎期5%以上の割合で残高を伸ばすことはむずかしく、民間金融機関間の借換えによる奪い合いがさらに高まることが予想されます。

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